アンティークのジュエリーには センチメンタルジュエリー といったカテゴリーがあります。
今回は センチメンタルジュエリー から学ぶ モチーフ の 意味 をテーマにご紹介していきます。
【 はじめに 】

センチメンタルジュエリーというものを知っていますか?
現在アンティークジュエリーと呼ばれるジュエリーは、今から100年以上前につくられたもの。
そんなアンティークジュエリーのカテゴリーの中に、存在するセンチメンタルジュエリー。
◇アンティークについてはこちらをどうぞ→
これは宗教的な信仰を誓うジュエリーと、愛する人との永遠を誓うジュエリー、そして故人を偲ぶためのモーニングジュエリーを指します。
これらにはモチーフや宝石に込められた意味合いが存在します。
現在私たちが何気なく使っているアクセサリーのモチーフも、元をたどるとそういった意味合いで使われてきたものかもしれません。
どんな思いで当時の方たちが使ってきたのか改めて知ると、現在使っているアクセサリーの見方もきっと変わるかもしれません。
また誰かにアクセサリーやジュエリーを贈りたいと思った時、どうせならモチーフの意味を知って選びたいですよね。
アクセサリーやジュエリーを贈る相手は、きっと自身にとってとても大切なお相手のはず。
今回はアンティークジュエリーやセンチメンタルジュエリーからモチーフの意味をご紹介していきます。
【 センチメンタルジュエリーって何? 】

センチメンタルジュエリーとは愛情や死者への思い出を表現したジュエリーのこと。
・愛する人との永遠を誓うジュエリー
センチメンタルジュエリーの中でも一番ポピュラーである、愛する人との永遠を誓うジュエリー。
これは愛の言葉が彫られたものや、イニシャルの入ったもの、関連のあるモチーフが使われているものなどがあります。
モチーフはハートであったり、天使(キューピッド)、鳩や蛇、勿忘草など。
特に有名なのは、「REGARD」と「DEAREST」と呼ばれるジュエリー。
どちらも並べた石の頭文字をつなげると、その言葉になるというもの。
「REGARD」(リガード)(敬愛・親愛)ならばルビー(RUBY)、エメラルド(EMERALD)、ガーネット(GARNET)、アメジスト(AMETHYST)、ルビー(RUBY)、ダイヤモンド(DIAMOND)の頭文字。
「DEAREST」(ディアレスト)(最愛の人)ならばダイヤモンド(DIAMOND)、エメラルド(EMERALD)、アメジスト(AMETHYST)、ルビー(RUBY)、エメラルド(EMERALD)、サファイヤ(SAPPHIRE)、トパーズ(TOPAZ)、といった風です。
アクロスティックジュエリーとも呼ばれたりします。
また石の名前ではなく、石の色の頭文字をとって言葉が紡がれるようなものもあったりします。
この表現方法は18世紀のロマン主義の時代にとても人気がありました。
ポウジィジュエリー(POESYというのはフランス語のPOESIEが語源といわれ、詩的な表現の宝飾品の意味合いを持ちます。)ともよばれ、率直に愛情を表現することをはしたないと考える当時の上流階級の方たちが相手に気持ちを伝えるために贈ったといわれています。
こういったメッセージの込められたジュエリーは18世紀から19世紀の貴族の中で流行しました。
さきほどの言葉以外にもLOVEやAMORE(愛)、ETERNITY(永遠)といったメッセージが込められたメッセージジュエリーがあり、男女間のみならず、友人や家族間で贈られました。
また頭文字を使ったもの以外には、花言葉をイメージしたものやフェデリングといったものも人気がありました。
・フェデリング…ハートを両手で支えたうえに王冠が乗ったデザインで、私の地位と名誉、心を捧げますといった意味合い。
そして蛇をモチーフにしたスネークリングも爆発的な人気を誇ったリング。
蛇のモチーフ自体は「途切れない愛」を表現していて、ヴィクトリア女王が身に着けたことがきっかけで大流行したのです。
他にも珍しいデザインとしては愛する人の「目」を描いたジュエリー。
ペンダントなどが多いアイテムですが、思い出を共有するといった意味合いがあるようです。
・宗教的な信仰を誓うジュエリー
私たちの生活の中ではすでにデザインとしてなじみ深い十字架はこの代表的な物。
またメダイであったりロザリオも信仰を表します。
元々は洗礼を受けた人が身につけ、周囲に信仰を表わしていたのだとか。
結び目をモチーフとしたデザインも、キリスト教の三位一体を表現するために使われる場合もあります。
・故人を偲ぶためのモーニングジュエリー
スペルで記載するとMorning(朝)ではなく、Mourning。
これは悲しむ、とか喪に服するという意味のある英語「Mourn」の名詞形。
そうです、喪中だとか哀悼の意味を持つジュエリーのことをモーニングジュエリーと言います。
本来は近親者の喪に服する期間に身に着けられたモーニングジュエリー。
独特の美しさを持っているので、後の19世紀ヨーロッパでは、喪中でなくともこういったジュエリーを身に着けることが流行しました。
死を悼むためのジュエリーとしてよくモチーフにされたのはしだれ柳や骨壺などのモチーフ。
ジェットや黒いエナメルを施したものが多く、亡くなった方の名前や年齢、日付などが刻まれました。
初期のモーニングジュエリーは黒いエナメルが施されましたが、未婚の方や子供を悼むような場合は白いエナメルが使われました。
アイテムとしてはロケットペンダントやブレスレットなどが作られ、中でもリングが一番人気があったようです。
指輪やロケットペンダントの中には亡くなった方の髪の毛を入れることもあり、髪の毛を見事な模様として表現した細工も残っています。
◇モーニングジュエリーについてはこちらをどうぞ→
【 どんな背景で生まれたもの? 】

キーワードは 「MEMENTO MORI」
時は1600年中ごろのイギリス。
情勢が不安定な中、チャールズ1世が処刑されました。
チャールズ1世の治世を懐かしんだ人々の中には、彼の遺髪を編み込んだジュエリー(ヘアージュエリー)を身に着けることが流行したのです。
このころはちょうどヨーロッパ中がペストに苦しめられ、戦争が続き、人々の不安も最高潮に達していました。
この不安な気持ちが、「MEMENTO MORI」(メメント モリ)といった教訓を人々の心に刻み込みました。
これはラテン語の格言で、自身がいつかは死ぬということを忘れないようにしなさい、といった意味があります。
そしてそんな教訓を想起させるモチーフである、髑髏や棺、骨壺や墓石をモチーフとしたジュエリーが流行したのです。
時は流れ1800年代になると、遺髪や髪の毛を使ったジュエリーはどんどん多様化していきました。
この流行はヴィクトリア女王がアルバート公の喪に長く服していたことも影響し、モーニングジュエリーの代表的な宝飾品であるジェットとともに人々から人気を博しました。
故人を偲ぶために生まれたジュエリーは、時代と流行とともに変化し、大切な相手や気持ちを伝えたい人に贈られるようになるのです。
これは髪の毛の持つ神秘性や色目の美しさなどからそのように変化していったようですが、現代でこういったアクセサリーをもらったとしたらなんとなく怖いイメージがありますね…。
しかしそのころは自身の髪の毛を編み込んでロケットペンダントに入れて戦地の恋人に贈ったり、家族の髪の毛を組み合わせてジュエリーにしたりと、「家族や人とのつながり」をとても重要視していたように思えます。
こういった専門の細工をする職人のみならず、家庭でつくることのできる簡易版の細工の方法をまとめた本が発行されていたことからも、どれほど人気が高かったのかがうかがい知れます。
ですがこれだけ一世を風靡したヘアージュエリーも残念な事に、モーニングジュエリーの代表的な石でもあるジェットの偽物や粗悪品が出回ったこともあり、徐々に人気は落ち着きます。
その後ヴィクトリア時代の終焉と共に姿を消してしまうのです。
◇ジェットについて詳しく知りたい方はこちらをどうぞ→
【 代表的なモチーフ 】

モチーフ事にどんな意味を持つのか見ていきましょう
・鳩
精霊のシンボルとして神の言葉を伝える役目がありました。
世界中で戦争が絶えなかった時代、穏やかな日常はかけがえのないものでした。
現代の私たちにとって、鳩のいる光景は珍しいものでもなんでもないですが、その時代の人たちにとって鳩がいる何でもない日常の光景こそが平和だったと伺い知れます。
鳩が勿忘草を加えてはばたくモチーフは現代でも見かけます。
これは戦地に赴く兵士が恋人や妻に贈ったデザインで、「私を忘れないでほしい」といった意味が込められています。
・ツバメ
ツバメは夫婦そろって子育てをするので、その様子から「長く幸せな家庭を築く」シンボルになっています。
またヒナたちに食べ物を運ぶ姿から、「幸せを運ぶ鳥」とも呼ばれます。
・ハート
心臓を表すハート。定番のデザインですね。
愛情や幸福の象徴です。
南京錠とセットになっているものなどは、「私のハートの鍵をあなたが握っている」といった意味合いになるそう。
・愛情を表す花のモチーフ
先ほども出てきた勿忘草以外にも花のモチーフは愛情を表すものが多いです。
時代が進み19世紀初頭はナチュラリズムの宝飾品が流行したため、植物やフルーツなどのモチーフも人気がありました。
これはデザインの可愛らしさや普段から身に着けやすいといった点だけでなく、ガーデニングブームが人気の後押しをしていたそう。
- チューリップ…誠実な愛、思いやり
- カーネーション…真実の愛情
- デイジー…美しさや潔白、純潔
- バラ…あなたを愛する
- エーデルワイス…大切な思い出
- ハイビスカス…新しい恋
- プルメリア…気品
- パンジー…私を想って
- マーガレット…忠実な愛情
- ダリア…華麗
- ユリ…純粋無垢
- 鈴蘭…再び訪れる幸せ
- アイリス…信じる心
・ツタ
伸びる性質から縁をつなぐと考えられ、友情や忠誠のシンボルとされています。
・ブドウ
富の象徴、繁栄、子宝に恵まれるといわれています。
・蜂
昆虫の中でも人気のあるミツバチのモチーフ。
古代ギリシア時代より縁起の良いものとされています。
ヨーロッパではミツバチの来訪は、未知の良いお客様の来訪を告げるとされました。
そのほかにも、勤勉、純潔、豊穣、知恵のシンボルでもあります。
・蛇
古来より幸運や吉兆、永遠の象徴とされています。
ヨーロッパでは永遠の愛のシンボルとされ、恋人に贈る定番デザインだったようです。
・月や星
イギリスのヴィクトリア時代に特に人気の高いデザイン。
月は女性を表し、月の満ち欠けは成長を示します。
星は暗闇で道しるべとなることから希望や願いの成就を表します。
三日月や星、サンバースト、スターダストをモチーフにしたものは現在も人気がありますね。
元々ロマンチックなイメージのあるこのモチーフ。
時代の流れとともに、宇宙への好奇心や未知への憧れが反映される時代もあったようです。
・手
幸せをつかむといった意味合いや魔除けとして使われます。
・髑髏や棺桶
モーニングジュエリーではおなじみの髑髏や棺桶モチーフ。
髑髏自体は昔から使用されるモチーフで人間の魂は頭に宿ると考えられていたため、復活や再生という意味合いを持ちます。
「MEMENTO MORI」の教訓から死と隣り合わせである人の儚さをデザインしているので、死を連想させるモチーフ。
◇ほかのモチーフについてこちらでもご紹介しています。→
【 まとめ 】

今回は センチメンタルジュエリー から学ぶ、 モチーフ の 意味 をご紹介してきました。
センチメンタルジュエリーの中でも特にモーニングジュエリーは、少し怖いイメージを持った方もいらっしゃるでしょうか。
確かに現実に考えて誰かの髪の毛を使ったジュエリーを身に着けるなんて、恐ろしい感じもしますよね。
ですがこの時代のジュエリーに必ず感じられる確かな事。
それは相手の事を思う気持ちがとても強く、それと共に絆を大切にしていたんだなということ。
時代背景の制約などがあり、おおっぴらに表現できなかったことも手伝ってこういった表現方法を取ったのかもしれませんが、ここまでの表現は現代の私たちには少し過剰に感じられるかもしれません。
しかし大切な相手には心のこもった贈り物をしたいという気持ちは変わりませんよね。
バレンタインやホワイトデーが今年もやってきます。
センチメンタルジュエリーが流行を見せたのも、奇しくもペストが大流行したころ…。
コロナが蔓延している現在、今年のバレンタインやホワイトデーもきっと通年と同じにはいかないとは思います。
ですが今年誰かにジュエリーやアクセサリーを贈ろうと考えている方は、モチーフや石の配置に言葉を隠して、想いを託してみるのも素敵かもしれませんね。
そんな時はぜひセンチメンタルジュエリーの事を思い出してもらえたら嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
◇corbata pajaritaでも植物などのモチーフをよく使用しています。
宜しければご覧ください。→