金属アレルギー対応 のパーツや金具を使っていると言っても、全ての金属アレルギーに対応しているわけではありません。
これは人によってアレルギーを起こす金属が違うという点や、海外と日本のめっきに関する基準が違う事、そしてアクセサリーやジュエリーに加工される金属は大抵割金が使われていることなどが関係します。
今回はこの 金属アレルギー 対応 という表記の 嘘 と ホント を解説します。
もくじ
【 はじめに 】
昨今よく見かける「金属アレルギー対応」の表記。
これはある意味では本当、だけど場合によっては嘘にもなり得る表記です。
「金属アレルギー対応」の金具を使ってつくっているからといって、全ての金属アレルギーに対応したアクセサリーにはならないのが真実。
金属アレルギーの方が多いからこそ、そういった素材やアイテムが増えていますし、作り手側もアレルギーの方に寄り添いたい一心でそういった素材を選んで使用しているのもわかります。
しかし結局のところ、金属というひとくくりの表記で表すことが危険です。
金属といえど、その種類は現在の金属元素で言えば90種類を超えます。
この中で一般的に装飾品に使用されるとなればグッと種類は減りますが、
つける人がどの金属のアレルギーなのかによっては「アレルギー対応」の記載があるアクセサリーだって、アレルギーを起こす危険性があるんです。
今回はこのアレルギー対応という言葉の真相に迫ります。
【 金属アレルギーの原因 】
まずは簡単にアレルギーのおさらいです。
以前にもブログで金属アレルギーに関してご紹介してきました。
こちらを読んでいない方の為にも改めてざっくりとお伝えすると、金属アレルギーの原因は汗などの水分によって金属から溶け出した金属イオンが体内に入り込むことで起こるアレルギー反応のこと。
このアレルギー反応の原因は食生活や生活習慣の変化、長年のアレルギー物質の蓄積、様々なストレスにより体のバランスが崩れること、免疫機能の低下などなど。
これらが引き金となり、ある日突然起こるのが金属アレルギー。
金属アレルギーは金属を身に着けていることで起きる接触性皮膚炎のタイプと、食べ物や歯科治療などを通じて体内に入り込んだ金属によっておこる全身性金属皮膚炎の二種類があります。
そして一度おこったアレルギー反応は、他のアレルギー同様、基本的に治ることはないのです。
夏になると金属アレルギーが増える傾向にありますが、これはやはり汗をかく量と頻度の問題。
そしてアクセサリーをつけたまま、プールや海に入るといったことも原因の1つ。
私自身、彫金などをやっていたり、ハンドメイドでアクセサリーを作ったりしていますが、金属のアレルギーがあります。
幸いなことに、症状は軽く、アレルギー物質の含まれるアクセサリーを身に着けると痒みと炎症がおきる程度です。
しかし重度の方にもなると、水膨れや皮膚炎、発熱、全身のだるさなどに見舞われます。
アレルギーの反応はコップによく例えられますが、コップ(自分の許容量)に水(アレルギー物質)がいっぱいになってこぼれてしまうことで症状がでる状態のこと。
なので、症状のでる原因のアクセサリーをそのまま使用し続けることは、症状の悪化を引き起こしかねません。
最初は軽く済んでいたとしても、そのままつけ続けることは危険なんです。
アレルギーというのは個人差がとても大きいです。
いつ、どんな症状で、どんな度合いで現れるかはわかりません。
あるいは同じ度合いで同じものを使っていても、まったく起こらない人だっています。
ちょっと特殊なケースだと、歯を治療した金属にアレルギーがおこったことで、謎の体調不良に長年悩まされた人だっているんです。
だからこそ、そんなことにならないためにも、そんな事態を引き起こさないためにも、作る側、着ける側、双方の理解が必要だと考えています。
【 ニッケルフリー の真実 】
海外と日本では基準が違う!
アクセサリーや素材の販売ページを見ていくと、アレルギー対応と記載されるアクセサリーパーツを目にします。
そういった商品のお話しをお伺いすると、ニッケルフリーであるという説明をされることがあります。
本来ニッケルフリーというと、ニッケルがフリー(使われていない)という意味合いになるのかもしれません。
ですがまずこれが1つ目の罠。
大きな落とし穴です!
このニッケルフリー、日本ではニッケルを使用していないという意味ではなく、ニッケルが少ないという意味で使用されます。
ヨーロッパではアレルギーの主要原因のニッケル。
日本よりも厳しく規制されているために、ニッケルフリーと呼ばれるためにはきちんとした基準があります。
①メッキの中にニッケルを使用していない
②金属(合金)の中にニッケルが含まれていない
③溶出量検査にて業界基準を満たしているか
これを満たした場合のみ、ヨーロッパでは晴れて「ニッケルフリー」「ノンニッケル」と呼べるのです。
しかし日本はこういった基準がありません。
何事にもきちんとしたガイドラインや決まり事が存在する日本なのに、不思議ですよね。
それどころか、各社の判断によりその呼称が使用できているのが事実です。
極端な話、過去の自社製品よりニッケルのパーセンテージが少しでも下がっていたら、ニッケルフリーと言えてしまうのです。
そして販売している側、制作している側の人間ですら、ニッケルフリーというのはニッケルが使われていないと勘違いしている可能性だってあります。
どうですか?
この言葉を使用する立場にある方は、このことを知っていて使用していますか?
もちろん日本でも完全なるニッケルフリーは少しずつ広まってきています。
しかし現時点では基準が曖昧なのでニッケルが入っているのか、入っていないのかすら分からないのが現状です。
そのためニッケルフリーの素材やパーツは「アレルギー対応」という言葉と、必ずしもイコールではないんです。
そしてニッケルアレルギーはあくまでも主要な金属アレルギーの原因の一つであって、ニッケル以外の金属にアレルギーがある方の場合は、ニッケルフリーかどうかよりも、そのアレルギーとなる金属が入っているかどうかをきちんと確認することが必要です。
【 目に見えない割金の存在 】
「割金」って気にしたことありますか?
二つ目の落とし穴は、アクセサリーやジュエリーに使用される金属は大抵表記される金属以外に「割金」という金属を含んでいるということ。
たとえば銀を例に説明しますね。
大抵、silver925とかSV950とか、STERLING(スターリング)といった刻印が入っています。
これは銀の純度の割合を表しています。
銀の割合100%のアクセサリーも皆無ではありませんが柔らかく傷がつきやすい為、あまり見かけません。
基本的には強度を上げるためだったり、加工をしやすくするためだったり、変色しにくくするためだったり、金属によっては見た目をよくする(色を調整する)などの理由から先ほど出てきた「割金」と呼ばれる別の金属を混ぜます。
この表に出てこない「割金」の存在こそが、アレルギーの原因になることもあります。
先ほどのsilver925(SV925 / Ag925)(スターリングシルバー)これは純銀 92.5% + 純銅 7.5% を表します。
SV950(Ag950)(ブリタニアシルバー)であれば純銀 95% + 純銅 5%。
また一言でシルバーといってもこんなものもあります。
・プラチナ100 純銀 90% + プラチナ 10%のシルバー合金
・ピーファイブ 純銀 95% + プラチナ 5%のシルバー合金
・ゴールドプラス 純銀 95% + 純金 5%のシルバー合金
・ピンクシルバー 純銀 + 割金(純金、純銅、パラジウムなど)のシルバー合金
・イエローシルバー 純銀 + 割金(純金、純銅、パラジウムなど)のシルバー合金
ざっと見ただけでも、銅だったりプラチナ、ゴールド、パラジウムなどが加えられることがあるのがおわかりいただけたかと思います。
金属や用途によって割金は変わってくるので一概にはお伝えできませんが、銀の場合は主に銅やパラジウム、ゴールドの代表的な物は銀、銅、パラジウム、ニッケル、亜鉛など。
プラチナではパラジウムやルテニウム、イリジウム、銅、コバルト。
これ以外にも金属ごとに様々な組み合わせが存在します。
プラチナやゴールドの高級な宝飾品であればアレルギーが出ないと考える方もいらっしゃいますが、これも正確に言ったら嘘です。
確かにゴールドなどは金属イオンが溶けて出てきにくいので単独の素材であればアレルギーが起こりづらいとされる素材です。
ここまで読んでくださってる方なら既にお気づきかと思いますが、実際、どの素材にアレルギーがあるかが問題なので、割金にアレルギーがあれば発症する可能性もあります。
それにアレルギーが起こりづらいと考えられている素材だって可能性は絶対にゼロではないんです。
現にチタンは問題ないと長年考えられてきましたが、昨今チタン原因と考えられる症例が出ているようですので100%ではないのかもしれません。
◇割金を使用した合金やめっきについて詳しく知りたい方はコチラをどうぞ→
【 アレルギーが出やすい素材・出にくい素材 】
金属アレルギーになってしまうと、アクセサリーを敬遠してしまう方もいらっしゃるかもしれません。
ですがそんな場合、一番良いのは症状に気づいたら皮膚科医を受診すること。
原因となる金属の特定はパッチテスト(接触テスト)やリンパ球刺激試験・リンパ球幼若化試験(血液テスト)で診断できます。
アレルギーの程度によっては試薬を皮膚に張り付けるパッチテストよりは血液から診断する方法をとる場合もあると思いますが、そのあたりは専門のお医者様とご相談ください。
パッチテストの検査項目はだいたい、アルミニウム、コバルト、スズ、鉄、プラチナ、パラジウム、マンガン、インジウム、イリジウム、銀、重クロム、クロム、ニッケル、亜鉛、金、銅。
これは一般的に日常的に触れる可能性のある金属の代表的なもの。
ご自身のアレルギー物質がわかれば、その金属の含まれないアクセサリーを探せば問題なくアクセサリーを楽しんで頂けます。
(あくまで体質は変化します。検査時点で問題なかった金属も後日症状が出る可能性もあります。)
また金属アレルギーの原因物質として挙げられることの多い金属は、水銀、ニッケル、コバルト、スズ、パラジウム、クロム、銅、プラチナ、亜鉛、金。
シルバーはそれ自体はアレルギーの起こる順位はそれほど高くありませんが、シルバーの割金に多く使われるニッケルはアレルギーの起こる順位がとても高いです。
ロジウムコーティングなどがされていてもアレルギーが出やすいため、心配な方は避けてください。
そして上位にあがっているニッケルやコバルトなどはアクセサリーというより日常生活で触れやすい物質です。
(例えば50円硬貨や100円硬貨はニッケルと銅の合金ですし、十円硬貨はスズと銅の合金です。コバルトはシリカゲルに混ぜられていたりデジタル機器には欠かせないリチウムイオン電池に用いられます。)
また安全だと言われる金属はというとチタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル。
あまり一般的なアクセサリーでは目にしない素材です。(どちらかというと工業製品に使用されます。)
上記以外だとサージカルステンレスもアレルギーが出にくいです。
ただ繊細な加工が難しい素材のため、残念ながら華奢なデザインはあまりないといった印象。
そして結婚指輪・婚約指輪に使われることの多いプラチナは、割金にパラジウムを使用することもあるのでその点も注意が必要です。
◇真鍮と金属アレルギーについてはコチラをどうぞ→
【 どういったことに注意が必要? 】
注意すべき点は…?
ここまでアレルギーについて書いてきて、金属アレルギーの方がどういったことに注意したら良いかお伝えしてきました。
では現在症状が無い方やアレルギーが心配な方がどうしたらいいかもお伝えしていきますね。
①金属を使用していない(金属部分が肌に触れない)アクセサリーを選ぶ
例えばパールや天然石のビーズのみで作られたネックレスやブレスレット(留め金具の素材には注意が必要)だったり、布に刺繍されているアクセサリー、樹脂のパーツを使用したアクセサリーを選ぶようにするとアレルギーの心配が少ないです。
②イヤリングは留め具にシリコンカバーをつける
首回りや耳の裏側は思った以上に汗をかきます。
金属が直接触れないようにカバーを使用しましょう。
滑り止めの意味合いや、耳たぶへの負担軽減などの意味合いからもカバーがついていると安心です。
③ピアスの針部分がサージカルステンレスのものを選ぶ
ピアスはアクセサリーの中でもダントツにアレルギー症状がでやすいです。
耳に開けたホールは皮下組織と直接金属が接触するため、他のアクセサリーと比べて2倍程度にもなるとか…。
ホールの完成前は皮膚を守る分泌液が特に多く分泌されていて、金属も溶け出てきやすい環境です。
きちんとホールが完成してからファーストピアスを外すこと、完成後も肌に優しい素材を選ぶことが大切です。
◇後悔しないために知っておきたい ファーストピアス の事はコチラをどうぞ→
④メッキのアクセサリーは避ける
メッキにもよりますが、アレルギー物質でもあるニッケルが含まれる可能性があります。
メッキの種類がわからない状態での使用は控えた方が無難です。
⑤長時間つけたままにしない
肌に接触している時間が長いとアレルギーが起こる可能性が高まります。
お出かけなどから帰ったら、外すようにしてください。
⑥お風呂やプール、海水浴ではアクセサリーをはずす
水分と金属はアレルギーの要因になり得ます。
水気のある場所での使用は避けましょう。
⑦汗をかく状況でははずす
スポーツをするときやサウナなどでは必ず外しましょう。
サウナでは金属の温度が上がることでやけどの心配がありますし、スポーツ中も思わぬ事故や怪我につながる可能性があります。
⑧肌に傷があるときはつけない
肌が傷を治そうとして分泌液を出している状態で、そこに金属が触れるとアレルギーが起こりやすい環境が出来上がります。
傷があるときはアクセサリーは避けましょう。
⑨アクセサリーを清潔に保つ
雑菌の繁殖を防ぐためにも、使用後にお手入れをし、ほこりが付かないように保管しましょう。
保管の仕方は見せる収納(ホコリから雑菌が繁殖する可能性があるため)よりも個別に袋にしまう方法がおススメです。
【 まとめ 】
今回は 金属アレルギー対応 の 嘘 と ホント について書かせていただきました。
普段気にすることのない素材ですが、一人ひとりアレルギーの原因となる金属は違います。
中には検査を受けてアレルギー物質を特定するなんて必要ない、とか、アレルギーを起こしたことのある素材を避けてアクセサリーを選ぶから問題ないと考える方もきっといらっしゃるでしょう。
確かにアクセサリーなどの装身具であれば、症状が起きたら外して、その後身に着けなければ問題ないかもしれません。
しかしインプラントなど体内に埋め込む金属は特に注意が必要で、気を付けたいポイントでもありますね。
体質は変わるもの。
ですが金属アレルギーが治ることはないので、アレルギー物質が検査時より増える事はあっても減ることはありません。
知っていれば何かあった際にお医者様とのやり取りもスムーズになりますし、自身の最低限のアレルギーは知っておいても損はないのでは、と思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!